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サックスと日常と非日常の記録

「プリンセス・トヨトミ」 万城目学の大阪愛

大阪愛。「プリンセス・トヨトミ」は、万城目学の大阪そして大阪の人々への愛情を描いた作品。

万城目さんの作品は、優れたエンターテイメントであると同時に、作を重ねる度に、人間への洞察や愛着がどんどん深まり、作品としての深みが増しているように思う。

この小説のボクの最初の読後感は、上田正樹の名曲であり大阪人の心の唄でもある「悲しい色やね」のオッチャン、オバチャン版やな〜。そしてフツフツと沸き上がる心懐かしさと安堵感。

大阪の下町?空堀商店街を舞台に、繰り広げられる、相も変わらず奇想天外な万城目ワールド、破天荒ストーリーだが、そこにはしっかりと人々、男、女がいる。自分達の役割をとつとつと果たす人々、自分が何者か模索する人々。ただの庶民が自分達のアイデンティティを淡々と守り続ける。親から子へ、そのアイデンティティを「象る(かたどる)」ことで引き継いでいく。そして彼ら彼女らのアイデンティティが寄る辺立つ所が、大阪。

本作のもう一つの魅力は、大阪の街そのもの。絶妙の描写で、人々が息づく情景が目の前に生き生きと浮かび上がってくる。人物の表情や声、街の空気、匂い、音までもが、文章から湧き上がってきて、手に取るようにイメージできる。特に大阪国の男達が次々と行動を起こすくだりは、静かな決意と哀愁を帯びた男の背中を感じる。

登場人物は、真田、橋場(はしば)、島、後藤、松平、鳥居、旭。。。作者得意の色んな仕掛けも満載でこれまた楽しい。

前二作のスピード感溢れる展開を期待する向きには、若干もたつきを感じるかもしれないが、作者の思いもタップリ詰まった関西三部作のラストを飾るに相応しい、滋味深いよい小説。

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)