songemen gemenson mensonge

サックスと日常と非日常の記録

川上弘美「センセイの鞄」

今週のお題「読書の秋」

少し前の日経新聞の夕刊連載で「森へ行きましょう」という不思議な小説があった。

ルツという主人公の女の物語が、異次元で同時進行に複数繰り広げられる。それも多次元で。

それぞれのルツ、留津、、、、は、林くんやら

〇〇さんやらといった名前も姿形も同じ人間と

各次元ごとに異なる関係、物語を繰り広げる。

ボクはこの小説の不思議な浮遊感を味わい

ながら、リサ・ランドールという、とびきり

美人でとびきり優秀な理論物理学者の「ワープ

する宇宙 5次元時空の謎を解く」という本

の中で繰り広げられる、多次元空間の世界を

ボンヤリ思い浮かべていた。

その小説を書いていたのが、川上弘美さん。

以来彼女のことがチラチラと気になり

彼女の作品を何冊か手にとって見た。

それぞれに肌あいは異なるのだけれども、

いずれにも共通するのは、独特な浮遊感、

幻想感、距離感そして時間感覚、空間感覚。

なんだか鈴木清順の映画のような気持ちの

よい違和感。

さて川上さんの「センセイの鞄」は彼女の

作品の中でも割とメジャー。

センセイとかつての教え子の中年女子ツキコ

さんの、淡交、そして恋。

川上さんの文章は簡潔で端正で清廉だ。
擬音ひとつとっても、普段と違う音がする。
木々の描写ひとつとっても、見え方が違う。

二人の時間は、淡い光の中で、幻想のように、

トツトツと別の次元で繰り広げられている。

現実の時間空間と、センセイとツキコさんに

だけに流れる時間空間。

そしてその光に包まれるような読後感。

まだ異次元の光の残像がボクの周囲に漂って

いる。何度も読み返し、味わいたい世界。

 

センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)